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紅茶国C村の日々

サー・ジョン・ソーン博物館(2)

サー ジョン ソーン の影の部分。

どんな人にも暗い部分がある、といったら悲観主義に聞こえるでしょうか。

ジョン・ソーンという人は、貧しいレンガ積み工(注、こちらの家は主にレンガを積んでできているから、いわば大工のようなもの)の末息子だった。14歳で父親と死別。縁あって建築家の見習いになり、そのおかげで当時最高峰のロンドンの王立芸術院(ロイヤル・アカデミー オブ アーツ)で学ぶことができた。それからめきめきと頭角を表わし、優秀な成績をおさめて、賞金をもらいイタリアへ留学する機会を与えられた。  その後帰国して、建築家としてキャリアをスタート。橋や門や建物内部の修復などを請け負っているうち、やがては地方都市の教会や、 貴族の館などを次々と建て、やがて セント・ジェームズ パレス、ホワイトホール、ウエストミンスター・パレス、チェルシーのロイヤル・ホスピタル、等々重要な建築物を手掛け、イングランド銀行の建設にはライフワークのように45年間ほどたずさわったそうだ。

才能と、努力と、運の良さはもう一つ、結婚相手の女性 エリザベスの叔父が不動産で大金持ちの人で、彼が子供がないまま亡くなったので、その遺産がすっかり姪のエリザベス、当時の法律ではすべてそれは男性つまり夫のジョンのものとなり、ギリシア、イタリア、ローマ、ポンペイ等々の芸術品や名作を購入することもできた。それに、母校のロイヤルアカデミーオブアーツの建築学科の教授職にもつき、自宅に収集した数々の芸術作品を学生たちに勉強させる場所ともした。

以上がすべて、華々しいキャリアだった。けれども、残念ながら二人の息子(ジョン・ジュニア、とジョージ)に後を継がせることができなかった。 長男ジョンは、その道に進もうとしたが、早逝し、次男ジョージは父のあとを継ぐことを嫌い、親に反抗し、贅沢をしては借金が返せなくて問題を起こしたりした。反抗をくりかえす息子に、結局財産一切をゆだねることを拒み、自宅は永代の博物館として公開されることになった。

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二人の息子の教育だけが、ジョン・ソーンの泣き所だった。うーん、そういうこともあるのだなあ。お金がありすぎるものも問題。良かれと思って教育しても、その通りにはいかない。

しかも、次男が親の意にそわないジャーナリストの女性と結婚し、父親の偉業を冒涜する記事を新聞に発表したりしたものだから、妻のエリザベスはそのショックもあって、1814年に亡くなってしまう。親子の確執というのは、恐るべきものかは。肉親の情愛というものは、時間をかければ結局どちらかが折れて和解することが可能な場合が多いとおもうのだけれど、ジョン・ソーンの場合、皮肉にも息子に遺産を譲りたくない一心で、自宅を博物館にして公開し、貴重な収集物が世界にシェアされることになった、と。

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昨日の記事に載せたこの博物館の所蔵物の中でとりわけ大事なウイリアム・ホガースの絵も、次男坊ジョージの人生を鏡に映し出すように、実在の人物(トム・レイクウエル)の一生を8枚の絵で描いたもので、親譲りの資産を使い果たし、遊び呆けて借金をかさね、挙句の果ては監獄で狂人となって死んでいく、という話。

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↑は妻エリザベス。彼女の死後、ジョンは23年ぐらい長生きをしたけれど、一人さびしく、美術品の収集と、その展示、そして後進の指導にあたる日々だったようだ。ジョン・ソーンのデザインしたお墓は、イギリスの赤い電話ボックスのデザインに影響を与えたのだそうだけれど、その墓地には妻と長男と自分だけが入り、次男は別のところに葬られたのだそうな。

家庭内のこういう不幸がなければ、ジョン・ソーンの建物の改築癖とか、遺跡や名画の収集癖は、少しはやわらげられていたのだろうか。とにかく、4畳半ぐらいの狭い部屋に118枚の名画が展示されていたり、 小さなブレックファースト・ルームと呼ばれる朝食の部屋には、絵画や天井の明かり窓だけでなく、100以上の鏡が取り付けられていたりという・・・ とにかく、柱一本、天井の一角、窓枠の手すり一つ、無造作に放っておかれず、飾り付けられているという空間。もっとも、ギリシア・ローマの遺跡からの彫刻や、絵画や、柱廊が何よりも彼の美観を形成していたため、そこに入り込めないセンスの持ち主には、せっかくの美術品もあまり意味を持たなくなってしまうのかもしれない。あまりにもコレクションが行き過ぎて、息抜きがしたくなるような博物館なのでした。
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by agsmatters05 | 2014-05-29 10:04 | Trackback | Comments(0)

紅茶国で(元)日本語教師(今もちょっとだけ)。身の回りのいろんなことを気ままにつづっていきます。日本語教育のほかに、イギリス風景、たまには映画や料理や本やニュースや旅や、家族のことなど。
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