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紅茶国C村の日々

N君と日本語(その5、最終回、まとめ)

もうちょっと書き足しておきたいことがありまして。

(1)キーステージ5、優勝者のこと。

さて、毎年この日本語弁論大会で、最年長組つまりキーステージ5(高校生の部、GCSEを終わっているレベル)で優勝すると、日本行きの切符がもらえるということは、去年「ロレンちゃんの準優勝」の記事で書いたとおりです。今年は、だれが日本行きの切符をもらえるのか、大会参加者、主催者、全ての関係者が興味シンシンでした。

Aレベルの日本語試験を受けているこのグループの最終選考に残った6人は、みんなだれも、とても立派でした。なにしろスピーチのあとに、おおぜいの前で日本語の質問にも答えなければならないのですから。

1人、とても上手なスピーカーがいました。「ぼくの犬と私」という題で、大事にしていた犬のことを話しました。すらすらと、自然な話し方で、すこしも弁論大会らしくない話し方で、たいへん流暢な日本語話者だと思われました。で、結論をいそぐと、この話者は結局、1位にも、2位にも、3位にも入らなかったのでした。なぜか?おおきな疑問がのこりました。

レセプションのときに、審査員のJY先生に直接お尋ねしてみました。でわかったこと。この弁論大会のスピーチは、ただ日本語が上手だというだけではダメで、話の内容がきちんと論理的に筋道が通っていないとだめだ、ということでした。アーギュメント(議論)ができていること。論旨が通っていること。単なる漫談、お喋り会ではないのだから、ということでした。

(2)Nくんのトチったところ

その意味で、Nくんのスピーチの一部がちょっとだけつっかえたことは、とても重大なことになっていたかもしれないものを含んでいました。(もう一度、MOREに彼のスピーチを貼り付けておきます。)

彼のスピーチは五つの段落(パラグラフ)からなっていますが、その中の真ん中の段落(「でも・・」ではじまるパラグラフ)は、とても大事な部分です。この部分がこのスピーチ全体を引き締めている急所だといっても過言ではない。こういう「ネガティブな意見」を含めることで、彼の主張は説得力を増すことができる。

N君の最初の英語の原稿でも、日本語の試訳の原稿でも、この「でも大人たちは・・・」という部分が別の場所に使われていました。これをどこにもってくるかについて、スピーチ全体の重みがずいぶん変わってしまいそうでした。彼の原稿をもらってから、しばらく数日時間をもらっていろいろ考えさせてもらいました。かれの最初の原稿どおりでは、どうにもうまく論旨がまとまらない、というか、いろいろな部分がバラバラになてしまう印象をうけました。それで、この部分をかなりずらして、しかも一つの段落として独立させることを思いつきました。もちろん、Nくんもこれは大賛成でした。

でも、おとなたちはぼくに言います。「いくら動物が好きでも、獣医になることはむずかしい。動物が好きなことと獣医になることは ちがう」と。でも、ぼくはそう思いません。しょうらいの仕事をするために 夢をもつことは とても大切です。


Nくんの「トチリ」はこの部分で起こってしまいました。こんなことは練習中は一度もなかったことでした。それは、上の引用部分の下線部でおこりました。「しょうらいの仕事をするために、夢をもつことは」のかわりに、なんとなんとなんと、で「しょうらいの仕事をするために、経験が大切です」と口がすべってしまったのです。 それはすぐ次の段落で

大学で 獣医学を勉強するためには、経験が大切です。


という文があるからで、どちらも「 ・・・・大切です。」となっているために、ひきおこしてしまった間違いでした。
ほんの一瞬のできごとでした。そのあとすぐにN君は、こともなげに、「ぼくの獣医の夢は・・・」と新しいパラグラフに入って(もどって)ふつうどおりに続けましたから、マイナスは最小限ですみました。一言一句もらさず聞いていたひとには、「経験が大切です。」とNくんが二回も言ってしまったこと、そして、「将来の仕事をするためには、夢を持つことは大切です。」ではなくて、「経験が大切です。」になってしまったことを「ん?」という感じで聞いただろうと思われます。ここは、経験の大切さではなく、夢の大切さに触れる部分なのでした。でも、それを一瞬のうちに通り越して、全体のスピーチをすらすらと、元気よく、堂々とこなしたために、この部分はおそらくNくん自身と私以外は、会場で誰一人気付かなかったことでしょう。休憩時間中にKF先生から「すごかったですね、Nくん。」の言葉を聞くまでは、N君の一位に100%の確信がもてなかったのは、この「トチリ」の波紋が予測できなかったから、でした。


(3) 舞台裏チラリ

N 君は最初に英語で原稿を書き、それを日本語に訳してもってきました。両方とも記録がのこっていますが、それだけでも大変な時間と努力、労力をついやした立派な作業でした。ただ、そのまま無修正で使えるなんていうことはありえない。日本人の論文が、どんなハイレベルの英語学習者の論文でも、かならず母語話者(ネイティブスピーカーまたは専門家)のチェックが必要なのと同じで、「てにをは」から始まって、語順も、場合によっては文章の順番も入れ替えたほうがベターだ、ということは多々ありました。Nくんの最初の主張を最大限生かしながら、GCSEレベルの日本語で、スピーチをまとめるために、添削の作業はいっとき難航しました。その例、ひとつ。

「ぼくの獣医の夢は、AGスクールに入ってから、グレードアップしました。」

N君のオリジナルの英語。 My efforts to become a vet took a serious up turn recently.
N君の最初の和訳。「さいきんぼくのどりょくは獣医になることに上げました。」
私の最初の訂正文。「さいきんのぼくのどりょくは獣医になることにちかづきました。」
最終的に。「ぼくの獣医の夢はGスクールに入ってから、グレードアップしました。」

「グレードアップ」という言葉は、もちろんGCSE の必修用語の中には入っていません。でも、カタカナ言葉が便利なのは、日本人にもよく知られていて、だれにも分かる英語で、しかも英語話者(ここではN君)もすぐにおぼえられる、よく知っている英語です。この変更は、N君にはすんなりと受け入れられるものでしたから、こういう文章を覚えることは、N君にはとてもかんたんなことでした。

「そのうえ、去年の夏、もっとすごいことがありました。」
これは、最後の段落の冒頭の文です。N君の原稿にはこの一文はなくて、いきなり「去年の夏休みにも・・・・」 = Also last summer I went to South Africa.... となっていました。「もっとすごい」というのは、私の解釈、介入、編集の結果なのですが、これも最後の段落をまとめる最初の文章として、とてもパンチが効いている(←ジガ自賛(笑))と思いませんか?  


(4)学校のホームページにのったこと


もうこのシリーズも終わりにしたくなってきました。(笑)

学校では、いろんな人がいろんなところで「静かな」反応を示してくれました。
メール、トイレ、そして、コンピュータールームとかで(笑)。・・・

校長先生からは短い手紙をいただきました。キャ先生と副校長のL先生からはメール。11年生の学年部長のキャロライン先生とはトイレで行き会ったとき「コングラチュレーション」って。広報部長のアリソンさんとはメールで二度三度やりとりがありました。地元の新聞に連絡したけど、記事に載るかどうかは、そのときのほかのニュースの量次第だって。週一回のローカル紙(バックス・ヘラルド)のこと。そして、コンピュータールームで隣り合わせた英語の先生(お名前がわからない(涙)とかが、お声をかけてくださいました。

フェイスブックでラテン語のサラ先生がN君の写真を載せた学校のHPの記事をシェアして、「よかった、昼休みに特別N君のラテン語個別レッスンを見てあげた甲斐があったわ。」とツイッター。

どういうことかというと、選択科目の時間割作成上、ラテン語を選択すると、日本語がとれない、日本語をとりたい場合はラテン語をあきらめなければならない、という同じ時間帯に属する科目群だったというわけです。N君が個別にサラ先生にお願いしたのでしょう、彼は昼休みに1人でサラ先生からラテン語を習っていたのだと、このフェイスブック記事ではじめて知りました。どうりで、N君は途中から木曜日昼休みのジャパン・クラブに来なくなったわけが分かった。サラ先生に感謝。逆の立場だったら、この結果はおそらくなかったことでしょう。週一回の昼休みではあまりにも授業回数が少なすぎる。ラテン語のGCSEなら、きっとN君、週1でも大丈夫でしょうけどね。


(5)Nくんの夏休み

さて、そのN君。7月24日から一ヶ月間。なんと、日本へ行くのだそうです。前から行きたがっていました。日本旅行の本も貸してあげたこともありました。けっきょく、お母さんのお友だちのニュージーランドの方から情報を得て、ライオンズクラブのプログラムに申し込んだのだそうです。最初の1週間は、キャンプに参加して、それから1週間、東京の吉祥寺とで、あとの2週間は東京の江戸川区 でホームステイさせていただくのだそうです。ここまでは、弁論大会当日の、レセプションのときにお母さんとN君から 伺いました。まったく1人ではじめてヒースローから成田まで南回りで飛ぶのだそうです。まさかそういうプログラムとは知らず、N君1人分の航空券を買うときはお母さんもちょっと心配になったそうです。

N君いわく、「(日本語が)ぺらぺらになって帰ってきたい」ですって。相変わらず、意欲満々。それでもまだ16歳。「ミス、日本へ行ったら、正座しないといけないんですか?」「ううん、そんなことない。その家の作りにもよるけどね。東京の家屋だったら、椅子とかソファが多いんじゃないかなあ。」と私。「家に入るときは靴をぬぐんですか?」「そうよ。よっぽど西洋風の家の作りになっていなければ、それがふつうよ。」

どうか、日本の皆様、Nくんをヨロシク。

「日本滞在中、なんかあったら、連絡してね。フェイスブックに写真載せて。一枚でも、二枚でもいいから。」「はい、わかりました。そうします。」   ・・・・・これからも、目が離せません。

*****************


6月29日金曜日は、11年生全員が、GCSE試験を終え、それまで学校から借りていた教科書類を全て返還する日でした。フランス語も、地理も、歴史も、化学も、物理も、すべて、紅茶国の公立学校は教科書貸与なので、使い終わったら教科書を学校に返さないといけません。日本語で使ったJBP(いそがしい人のための日本語、Japanese for Busy People)の教科書も、この日、生徒達が学校に持ってきました。

そして、私のメールボックスの中に、こんなものが(↓)。

N君と日本語(その5、最終回、まとめ)_e0010856_4312267.jpg


カードとチョコレート、N君からいただきました。

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日本のようにご贈答の盛んな国でない紅茶国のこと。おそらくお母さんと相談してのことでしょう。もう、事実上11年生は、9月になって12年生の新学期がはじまるまで、まとまって学校へ来ることはないのです。なので、その夜、N君にお礼のメールを書きました。「カードとチョコレート、ありがとう。日本語弁論大会での優勝本当におめでとう。N君、日本語を勉強してくれてありがとう。お礼を言いたいのはこちらこそです。この夏は、日本を楽しんできてくださいね。もしも9月からもっと続けて日本語を勉強したかったら、連絡してください。ASレベルの日本語試験の過去問なら全部そろってますよ。ワークシートもいろいろありますからね。」 

と書いたわけは、N君は12,13年生になっても日本語の勉強を続けたかったのですが、学校が、一クラス4人以上いなければ、その授業を開講しないって決めてしまったから、なんです。これも2008年の金融恐慌のあおり、指定校制度が終わりになって、言語学部に予算がおりなくなってしまったため。そして、6人いた彼のクラスメート達、N君以外に日本語を続けて勉強したい子達は1人もいなかったから、なのでした。

以上長々とおつきあいくださり、ありがとうございました。一応、この辺で、N君関連記事を終わらせたいとおもいます。もう、7月。また別の出来事がどんどんと続いて起こっております。

トーダイのジュン先生のブログの言葉をお借りして、
「そして人生は続く。」ということで・・・





 「しょうらい の 夢 」 N・H

こんにちは。ぼくは N です。AGスクールの11年生です。きょう、ぼくは しょうらいの夢について 話したいです。ぼくは こどものときから 動物が大好きでした。いつも動物の世話をしてきました。ぼくのしょうらいのゆめは 獣医になることです。 ぼくは ぜひ 獣医に なりたいです。

子どもの時、父が猫をかっていました。 猫はとてもいたずらねこでした。だから、ぼくは 猫をしつけることをおぼえました。そして、この猫の世話をしたり、えさをあげたり、いっしょに遊んだりしました。この猫が病院にいくとき、ぼくはいつもいっしょに病院にいきました。そして、病院が猫をどうするか、よく見ていました。薬のこともよくしらべました。ぼくが動物を好きだということは ちょっと有名です。なぜなら、友だちのうちへ行くと、ぼくはその家のペットとすぐなかよくなりますから。だから、日本語のべんきょうでもぼくは動物の漢字をおぼえることが大好きです。今ぼくはだいたい20ぐらいの動物の漢字をおぼえました。

でも、おとなたちはぼくに言います。「いくら動物が好きでも、獣医になることはむずかしい。動物が好きなことと獣医になることは ちがう」と。でも、ぼくはそう思いません。しょうらいの仕事をするために 夢をもつことは とても大切です。

ぼくの獣医の夢は、AGスクールに入ってから、グレードアップしました。大学で 獣医学を勉強するためには、経験が大切です。だから、ぼくはハーフタームに動物病院で実習をしました。一週間、毎日、朝九時から午後五時まで、実習しました。すごくおもしろかったです。午前中 病気の動物たちが病院にきて、しんさつをうけました。午後は手術 でした。この経験で、ぼくの獣医の夢はますます大きくふくらみました。

そのうえ、去年の夏、もっとすごいことがありました。ぼくは父と南アフリカに行きました。父が再婚するためでした。ぼくのぎりの母のうちは、ライオン公園の近くでした。ライオン公園のオーナーは、ぼくのぎりの母の家族の友だちでした。だからぼくは毎日ただで公園の中に入ることができました。ライオンたちは、生まれて3ヶ月から 3才ぐらいまででした。毎日ぼくは えさをあげたり、おりをそうじしたりして、ライオンたちの世話をしました。そして、いっしょに遊びました。おとなのライオンは、さわってはだめですが、こどものライオンは頭をなでてもいいです。このライオンたちといっしょにいると、ぼくはとても楽しかったです。この動物たちは人間の助けが必要ですから、ぼくはしょうらいこの動物たちを助ける仕事をしたいと思います。これが、ぼくのしょうらいの夢です。ぼくの話を聞いてくれて、ありがとうございました。

Commented by けい at 2012-07-02 16:51
ミチさん、
意欲のある生徒がいるのに希望者が少ないために日本語のクラスがなくなることは残念ですね。紅茶の国の教育予算も大分減らされているのでしょうか?違うクラスの来年度の日本語学習希望者増えると良いですね。
Commented by agsmatters05 at 2012-07-02 18:45
けいさん、イギリスの国家予算が、緊縮財政で、(どこもそうなんですよね、世界中今は)、借金だらけで、特に公務員など、ヒーヒー言っていて、民間の人も、クビになったり、退職勧告をもらったり、そういう時代みたいです。そういう時代の波には勝てないなあ、と私はいつも弱気。そして、ブログで愚痴って終わり(笑)。ま、一人でも日本語を習いたい子がいる間は、よろこんで教え続けたい、とおもっているのですが、、、いつまで続くかはまったくの?????です。
Commented by apakaba at 2012-07-02 22:58
いいスピーチとはどんなものか?
すごく考えさせられました。
Commented by agsmatters05 at 2012-07-03 08:04
apakabaさん、コメントありがとう。そうおっしゃっていただくと書いた甲斐があったような気がします。
前の年の優勝者がユーモアたっぷりで、会場を沸かせたのです。それで、「ユーモアが大事よ、ユーモアが大事よ」、ってN君にも言っておいた一時期があったのですが、彼は(まじめ人間なので)ユーモアたっぷりのスピーチは向いてなかったようです。同じレベルなら、ユーモアが含まれているほうが絶対に有利だという気がしています。
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by agsmatters05 | 2012-07-02 08:17 | Comments(4)

紅茶国で(元)日本語教師(今は退職)。身の回りのいろんなことを気ままにつづっていきます。日常の出来事、イギリス風景、たまには料理や本やニュースや出会った人々のことや、家族のことなど。
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