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紅茶国C村の日々

N君と日本語〈その4、スピーチ原稿〉

N君の練習は、本選の一週間前から毎日二回ずつ、時間を見つけて、やっただけでした。6月の10日まではハーフタームの休みだったので、何もできなかったのです。でも6月11日月曜日に、本選出場決定後、はじめてNくんのスピーチを聞かせてもらったときは、ほぼ9割の出来上がり状態でした。ところどころ、言葉が飛んでしまったり、「てにをは」がはずされてしまったりというわずかなミスがあるだけで、だいたい毎回、N君が話し終わると、一人で聞き役をしていた私は 拍手で終わるというパターンが続いていました。一つ一つの言葉をしり上がりに言ってしまうという、英語風のアクセントは、文章全体の記憶が定着するにつれ、全体の発音がスピーディーに流れていくようになると自然に解消されていきました。月曜から木曜まで、毎日試験の合い間を縫って、5分か10分練習をしているうちに、ところどころ小さな間違いを一つか二つするだけ、という状態がずっと続いていました。

気がかりは、ただ一つ、「あがって、ど忘れをしてしまうこと」でした。それがないようにするには、もちろん練習を120%、しておくこと。そして、持込を許されているメモ用紙を上手に使うこと、でした。もちろん、いちばんいいのは、「あがらないようにすること」です。N君は十分練習をつんでいるし、全てに自信をもっていいはずなのに、やっぱり時間が近づくと、緊張するなあ、とつぶやいていました。

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大使館に入ったら、全員の席に ↑ のプログラムがおいてありました。中には、年齢別3グループ〈キーステージ3,4,5という)それぞれ6人のスピーチの要約が短く紹介してありました。私は一緒に座っていた3人の同伴生徒に、中味が分からなくても、だれが一番になるか、という視点から聞くように。当たったら、ゴホウビ上げるよ、といっておきました。

N君は キーステージ4〈真ん中のグループ、これは15,16歳中心のGCSE(=中学レベル〉の生徒達でした。「学校名のアルファベットなら、1番最初だよね、きっと。」「最初のほうがぼくはいいな」と、前もって話し合ったことはあったのですが、残念ながら N 君の苗字は H で、6人中の4番目でした。

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大使館内は写真禁止で、これ〈↑〉は後から当日の写真係のY先生に送ってもらったものです。N君の許可を得てないので、お顔なしで、ごめんなさい。

Nくんのスピーチは、堂々たるものでした。でも、やっぱり、あがっているのも分かりました。実を言うと最高の出来栄えじゃなかったのです。一箇所、ちょっと予定通りのスピーチからはずれてしまったところがありました。彼の心臓もドキドキしてるのが分かりましたけど、私の心臓もドキドキしました。おそらくお母さんの心臓はもっとドキドキしてたでしょう、全然知らない言葉でわが子が200人ぐらいの聴衆の前でスピーチをしているのですから。

これは暗証大会ではないので、原稿どおりの発表でなくたってかまわないのです。ほんの一瞬、あれ?同じ言葉を二回使ってる、ということがかすかに聞き手に伝わっただけでおわりました。うまく快復できたのは、やはり日頃の練習のたまものというべきでしょう。

後半は、もう快調そのものでした。

ライオン公園の話の部分、最後の段落にはいったら、もうすらすらでした。私は遠くから審査員の先生たちのお顔を見ることができたのですが、ジャパンファウンデーションの日本語アドバイザーのF先生(審査員のお一人)が、N君の一文一文に合わせて楽しそうにうなずきながら、笑顔を浮かべて聞き入っておられたのを確認できました。

最後はばっちり、締めくくって大きな拍手でNくんのスピーチは終わりました。

練習どおりの最高の出来栄えじゃなかった。でも、全体としては、ほかのスピーカーにいささかも引けをとらないダントツのパフォーマンスだったといってもよさそうでした。内容的に充実していたことがいちばん。そして日本語の発音、スピード、声量、リズム、等々音声面において、よどみなく話すので、安心して聞けるスピーチになっていたことも、その理由。休憩時間は審査待ちの時間でした。ちょうど会場に来ていたKF先生に、「Nくんのスピーチ、どう思った?」と聞くと、「Nくんって、このスピーチをした子でしょ」とプログラムをさしながら、「すばらしかったじゃないですか。すごーい。」と言ってくださったので、ああ、よかった、どうやらカップをもらえるぞ、という気持ちになれました。

3っつのキーステージグループ、18人の発表が全部終わり、審査結果の発表のとき、隣の席のMくんは、自分のことのようにドキドキした、と後で話していました。私はある程度いけるな、とおもっていたので、一位の発表N くん、と聞いたときは、思わず両手を挙げて、よろこんでしまいました。引率生徒が3人でなくて、6人いたら、発表と同時に 「ウウォー!!!」と歓声をあげることができたかも、でした。実際ほかの学校の生徒が賞にはいったとき、この大きなどよめきの歓声を上げていた学校もあったのです。

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トーシバのノートパソコンと、日本語杯をもらった N 君〈↑〉です。 


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それでは長いこと引きずってきましたが、以下にNくんの発表原稿を載せさせていただきます。
Nくん、掲載許可、よろしくおねがいします。 Thanks in advance.

 「しょうらい の 夢 」 N・H

こんにちは。ぼくは N です。AGスクールの11年生です。きょう、ぼくは しょうらいの夢について 話したいです。ぼくは こどものときから 動物が大好きでした。いつも動物の世話をしてきました。ぼくのしょうらいのゆめは 獣医になることです。 ぼくは ぜひ 獣医に なりたいです。

子どもの時、父が猫をかっていました。 猫はとてもいたずらねこでした。だから、ぼくは 猫をしつけることをおぼえました。そして、この猫の世話をしたり、えさをあげたり、いっしょに遊んだりしました。この猫が病院にいくとき、ぼくはいつもいっしょに病院にいきました。そして、病院が猫をどうするか、よく見ていました。薬のこともよくしらべました。ぼくが動物を好きだということは ちょっと有名です。なぜなら、友だちのうちへ行くと、ぼくはその家のペットとすぐなかよくなりますから。だから、日本語のべんきょうでもぼくは動物の漢字をおぼえることが大好きです。今ぼくはだいたい20ぐらいの動物の漢字をおぼえました。

でも、おとなたちはぼくに言います。「いくら動物が好きでも、獣医になることはむずかしい。動物が好きなことと獣医になることは ちがう」と。でも、ぼくはそう思いません。しょうらいの仕事をするために 夢をもつことは とても大切です。

ぼくの獣医の夢は、AGスクールに入ってから、グレードアップしました。大学で 獣医学を勉強するためには、経験が大切です。だから、ぼくはハーフタームに動物病院で実習をしました。一週間、毎日、朝九時から午後五時まで、実習しました。すごくおもしろかったです。午前中 病気の動物たちが病院にきて、しんさつをうけました。午後は手術 でした。この経験で、ぼくの獣医の夢はますます大きくふくらみました。

そのうえ、去年の夏、もっとすごいことがありました。ぼくは父と南アフリカに行きました。父が再婚するためでした。ぼくのぎりの母のうちは、ライオン公園の近くでした。ライオン公園のオーナーは、ぼくのぎりの母の家族の友だちでした。だからぼくは毎日ただで公園の中に入ることができました。ライオンたちは、生まれて3ヶ月から 3才ぐらいまででした。毎日ぼくは えさをあげたり、おりをそうじしたりして、ライオンたちの世話をしました。そして、いっしょに遊びました。おとなのライオンは、さわってはだめですが、こどものライオンは頭をなでてもいいです。このライオンたちといっしょにいると、ぼくはとても楽しかったです。この動物たちは人間の助けが必要ですから、ぼくはしょうらいこの動物たちを助ける仕事をしたいと思います。これが、ぼくのしょうらいの夢です。ぼくの話を聞いてくれて、ありがとうございました。


Commented by marri at 2012-06-26 18:35 x
パチパチパチ!(拍手)
素晴らしいです。とってもわかりやすくて身近に感じる人柄です。
彼は、こちれでいうと高校二年生かしら?素晴らしいね^^♪
獣医さんですか!義理の母親のライオン公園ですか!
若いこの発表だけにサラリと響きます。
お母様は埃の息子さんですね。こんな賞を頂いてよかったなぁ~♪
Commented by 大崎繁子 at 2012-06-26 22:34 x
私もパチパチパチ!ほ~んとに素晴らしい!
胸にジ~~ンときました。
親の気持ち、教師の気持ちになって。
N君、夢に向かって頑張って欲しいです。
Commented by agsmatters05 at 2012-06-27 08:08
marriさん、彼は高校1年生にあたるとおもいます。あと2年後に大学生ですから。獣医というのは、イギリスでは特別、一番むずかしい分野です。医学部以上に、入るのがむずかしい学科。窓口が狭くて、そこに入りたい人があまりにも多いからです。普通じゃない、というくらいむずかしいところ、です。「誇り」の(!?)息子さんでしょう、お父さんにとっても、お母さんにとってもね。
Commented by agsmatters05 at 2012-06-27 08:28
繁子さん、
N君のやさしい人柄が出ている作文ですよね。どちらかというと、シャイで、一人っ子で、動物と無限に親しくなれる。いつまでも動物とあそんでいたい、というようなタイプの子なんです。ただし、万が一、獣医学ではなくて、ほかの専門科目を大学で勉強することになっても、Nくんはきっと成功をおさめることでしょう。どんな科目でも、きちんとこなせるんですから。
Commented by marri at 2012-06-27 09:58 x
いま、読み返して・・・びっくり!
「埃」ですか^^;; いやだぁ~(泣) N君にわらわれます!
「誇り」と大きく訂正いたします。身近に感じた一面とは、うちの倅なんです。
高校3年生の時、工学部の偏差値と変わらず(薬科程度)の獣医科、ちょっぴり悩んだ時があります。きっぱり諦めたのは解剖だったのです。
可愛い、大好きな犬たちを勉強の材料で解剖にすること。そういったことですべてを決めてしまって。
諦めたいきさつがあります。母一人子一人の優しい環境もいけないような。もっともあの倅の学力では夢物語の過去のお話ですが!
Commented by agsmatters05 at 2012-06-28 03:57
marri さん、イギリスの獣医熱は、日本とだいぶ違うような気がします。中学、高校生がヴェット(Vet,獣医)になりたいというと、ものすごく アンビシャス (実現性の遠い夢のような)な言葉に聞こえるほど、難易度が高いんです。だからこそ獣医になりたいという志望を掲げる子がいるのでは、と思われるほど、むずかしい志望先の代名詞になっています。でもまあ、こういうことは需要と供給の関係で決まるのでしょうから、獣医になってもよし、ならなくてもよし、なのではないかと私は思うのですが、こういう考え方はいけませんかね。息子さん、犬の解剖で志望変更をしたのは、正解だったんじゃないでしょうか。
Commented by けい at 2012-07-01 19:05 x
とても素直な、素晴らしいスピーチですね。本当におめでとうございました。
これでまた、来年のコンテストに出たいという生徒さんが増えるのではないでしょうか?
 
Commented by agsmatters05 at 2012-07-01 19:29
けいさん、
ええ、一緒に行った子達は、来年出たいといっていました。賞品のコンピューターがほしいから、とも。(オニが笑ってるかもね。)
by agsmatters05 | 2012-06-26 06:43 | Comments(8)

紅茶国で(元)日本語教師(今もちょっとだけ)。身の回りのいろんなことを気ままにつづっていきます。日本語教育のほかに、イギリス風景、たまには映画や料理や本やニュースや旅や、家族のことなど。

by dekobokoミチ