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紅茶国C村の日々

ロレンちゃんのスピーチ(その七)

その四でアップした写真のボイスレコーダー。前の日、H女子校の学科長(正式にはModern Foreign Language =MFL Department のディレクター)がかしてくれました。小型のビデオカメラも貸してくれるといったけど、大使館内は撮影禁止なので、ボイスレコーダーだけにしておきました。今年はしっかりと、各スピーチのあとの質問を記録しておいて、次の出場者の参考にしたいと思っていました。

6人のキーステージ5のスピーカーのあとにその場で即座に質問をする係りの方は、インターロキュターと呼ばれていました。マイクの状態が良くて、とても聞きやすく、分かりやすかったです。

以下が、当日、ロレンちゃんがスピーチのあとでインターロキュターから質問されたことでした。

(1)ロレンさんは、芸者についてたくさん調べましたね。どのくらい時間がかかりましたか。

(2)ロレンさんは、もしチャンスがあったら、日本で芸者になりたいですか。

(3)芸者文化のいい点は何だと思いますか。

(4)たくさんの西洋の人が芸者文化に興味をもっていますが、それはどうしてだと思いますか。

(5)芸者の一日はどんな一日ですか。

(6)最後に、ロレンさんは芸者のような古い文化が消えていくのは残念だといいましたね。古い文化を守るためにはどうしたらいいと思いますか。




ロレンちゃんの答えは (1)と(2)と(5)はバッチリでした。
(1)は、いろいろ説明したあとで、1週間ぐらい、と言いました。
(2)は、芸者はおもしろそうだけれど、家族と離れることはさびしいので、無理だと思うと言っていました。ロレンちゃんらしい答えでした。そして、この質問は、一応前もって私が想定した質問リストのなかに入ってはいましたが、何と答えるか、まではチェックしてありませんでした。聞かれるかも知れないよ、とはいっておいたことでした。
(5)は、ロレンちゃんは「私が読んだ本では、芸者の一日は昼間はしずかな時間で、夜はパーティーなどがあって、にぎやかです」といっていました。自分で本を読んだ強み、全然考えてなかった質問でしたが、静か、にぎやかというGCSE レベルの形容詞を知っていたので、うまく答えることができました。

うまく答えられなかったのは、(3)でした。この「芸者文化」という短縮表現になれていなかったのではないかとおもうのですが、ロレンちゃんは「もう一度お願いします」と言ったあと、インターロキュターから質問を繰り返されても、いい考えが浮かばなかったのでしょう、しばらく、ハラハラドギマギの沈黙でした。程なくして、インターロキュターが、ほとんど助け舟のように、次の質問に移ってくれたのでした。

こういうとき、会場はシーンとなります。ロレンちゃん本人がどぎまぎするのはもちろんでしょうが、私も緊張のピークでした。もちろんどうすることもできません。でも心の片隅で、ロレンちゃんのお母さんはきっと心臓が張り裂けるほどドッキンドッキンしているのではないか、とも思いました。全然日本語が分からなくても音声の抑揚、スピード、調子で会話がスムーズなのかどうかは、誰でもわかりますから。大げさに言えば、これは拷問台のようなものです。もちろんロレンちゃんだけでなく、すべてのキーステージ5の出場者は同じ体験をするわけです。そして、いくらスピーチが上手で、間違いがなくても、この質問にうまく答えられなければ、日本語力はたいしたことない、と見られて高い評価はもらえません。

(4)と(6)の質問は、ある程度予想していた質問に近いものでしたが、ズバリそのものの質問ではありませんでした。

(4)では、日本と西洋(イギリス)の文化がたいへん違うので、それが(西洋人に芸者や日本文化への)興味を増すことになると思う、という答えをしていました。短い答えだけど、グッド。それで答えになっていましたから、ホ、でした。

(6)の質問では、私の後ろの席にいた人たちが「わあ、これはむずかしい質問だわああ」とささやいているのが聞こえてきました。ロレンちゃんの答えは、ズバリの回答ではなかったのですが、前もって用意しておいた、「伝統とは多くの人々が長い時間をかけて作っていくものですから、伝統をまもることは大切なことだと思います。」というようなことを言いました。聴衆は、半分なっとく、というような感じで終わったとおもうのですが、沈黙の回答、または降参白旗の回答でもなかったので、一応の及第点をもらえるかな、という感じでした。そして、ほかのスピーカーは、話題によりけりで、伝統を守るためにはどうしたらよいか、というようなむずかしい(抽象的な)内容の質問はなかったので、ロレンちゃんのチャレンジは高く評価できる形で終わったと思いました。

長い休憩時間があって、審査員がむずかしい審査をして、やがて結果の発表となりました。審査委員長のMG先生が、今日の審査はほんとうにものすごく大変(ghastly)だ ったと言っていました。「ghastly」 という言葉は、顔が真っ青になるほど、ぞっとするほど、おそろしいという形容詞なんですよね。各キーステージで6人のうち、入賞できるのは3人なのですから、半分は選外となります。(もちろんお弁当箱セットというステキな賞品はもらえるのですが)。

ロレンちゃんのスピーチ(その七)_e0010856_2328112.jpg


さて、写真は今年の弁論大会のパンフレットです。
この中に、各キーステージ6人ずつのスピーチの要約がのっています。それを見ながら、結果の発表を聞きました。順番にキーステージ3の3位から結果が発表となり、そのたびに壇上に出て褒美やメダルやカップをもらい、しゃしんをとって、という段取りなので、最後のキーステージ5まではまたまた時間がかかりました。いよいよキーステージ5にはいったとき、とっさに私は、ウイットネス(証人)を作っておきたいと思って、前の列に座っていた二人のG校の生徒、ジェームズ君とマイケル君の肩をたたいて、小声でこうささやきました。「ねえ、私の予想=prediction を聞いてね。This is my prediction. ロレンちゃんは必ず3位以内に入賞するからね。」

そして、第3位は、国際弁護士志望の韓国系のジースーさんでした。確かに、上手なスピーチでした。そして日本語と韓国語は語順が似ている(動詞が文の最後にくる)ので、質疑応答のときも、すらすらと上手な日本語で答えていました。彼女が一位になってもけっして不思議ではないほど上手なスピーチでした。そして、ジャジャーン、2位。A・HスクールのロレンDP さーん!!!!!

わーい、ついにやりました。すごい、ロレンちゃん。GCSEの勉強しかしてないのに、すごーい快挙です。でも、これは会場の人たちは誰もこのことを知らないのです。私とロレンちゃんしか、ロレンちゃんが本来キーステージ5の資格がある出場者ではなくて、飛び級して参加してるということを、知らないのです。誰にも言ってません。一度はリディア先生に相談して、キーステージ4に下げてもらえないだろうか、という話を練習期間中に、ロレンちゃんと私は交わしたこともありました。とくにファイナリストに選ばれてから、ロレンちゃんは、4に移れないでしょうか、と私にいいました。でもファイナリストを6人ずつそれぞれのステージで選ぶのですから、今更変更できるはずもないとおもわれました。よほどありのままを主催者に打ち明けて相談しようかともおもいましたが、結局は本人次第だと思われたので、メールも書きかけのままにしてありました。

全部の賞品授与式が終わって、ロレンちゃんの家族の席へ行くと、お父さんが真っ先にこう言われました。
「やあ、理想的な賞をもらいましたよ。これで、ホリデーにもちゃんと行けるし。」
Commented by Yoshi at 2011-07-02 04:02 x
もう大分前に分かっていることですが、あらためて、「おめでとうございます」、と言いたいです。良かったですね。また、ミチ先生もご指導、ご苦労様でございました。ミチさんの日本語クラスは、良い生徒が多くて、少数精鋭ですね!
Commented by agsmatters05 at 2011-07-02 05:28
Yoshiさん、読んで、コメントを下さり、とても励まされました。ありがとうございます。生徒は一人一人ちがうので、ブログに書けない困った生徒も、何人もいるんですよ。愚痴や悩みや後悔もたくさんありますが、たまにはグッドニュースで、幸せな気分にひたらせてもらうこともゆるされますよね。

でもそれはそれとして、現実は、日本語教師の職はどんどん厳しくなっているのです。
Commented by 大﨑繁子 at 2011-07-02 06:15 x
ミチさん!なんだか胸にジ~~ンときましたよ。
飛び級の上に、一位になってもけっして不思議ではないほど上手なスピーチの生徒の上を行ったのですね~~素晴らしい!!
ロレンちゃんと先生に拍手!!!
Commented by Yoshi at 2011-07-02 17:29 x
>現実は、日本語教師の職はどんどん厳しくなっている

そうでしょうねえ。何しろ専任の先生方が何十年ぶりにストをするくらいですから、急速な予算削減の折、非常勤の方の地位は一層厳しいことでしょう。ロレンちゃんに個人指導できるクラスもあるようでしたが、受講者が少ないと言うことは、教えやすくても、一方では、その授業時間の確保が危ういという事ですからねえ。それに語学の授業って,インターアクションが大事ですから、少なすぎる弊害もありますよね。秋からの新年度、十分な生徒数と授業数が確保できますようお祈りします。Yoshi
Commented by marri at 2011-07-02 20:36 x
良かったね!頑張ったね!
飛び級で参加したのね。すごい現場に強い子だわ。
その自信と勇気は貴女が伝えたもの。やれば出来るといった自信が付きましたね。
貴女の日頃の努力が報われた事、私まで誇らしく思えます。おめでとう!
Commented by agsmatters05 at 2011-07-03 21:01
繁子さん、Yoshiさん、Marri さん、コメントをありがとうございました。一緒に喜んでもらえたら、うれしいです。

Yoshiさん、そうなんです。9月からは教える時間数も激減、収入も激減で、厳しくなります。バジェットカットはいたるところで進行中。教員ストライキは、私は協調できる立場じゃないです。この国の年金はあまりにも厚遇されてる気がしてました。
Commented by けい at 2011-07-03 21:51 x
ロレンちゃんの快挙おめでとうございます。  

昨年のロレンちゃんからクリスマス・カードを頂いた時に、余りに日本語の字も文章も上手なのに娘と二人で舌を巻いたものでした。ボランティアで日本語教師をしている娘は、短時間でこんなに上手に書けるなんてと信じられないようでした。

ロレンちゃんにどうぞ二位受賞おめでとうございますとお伝え下さい。これもミチさんのご努力の賜物ですね。本当におめでとうございました!!!!! 
Commented by agsmatters05 at 2011-07-03 22:36
けいさん、お久しぶりです。
お元気でしたか。
コメントありがとうございます。
これもけいさんはじめブログの皆様に応援していただいたおかげとおもっています。そしてこういう形でご報告できて、うれしいです。私には楽なことでしたが、ロレンちゃんの努力は並々ならないものだったのでしょうね。敬意を表したいです。
Commented by konatum at 2011-07-04 09:39
遅ればせながら、おめでとうございます!
ロレンちゃんも もちろんですが、ミチさんにも。
そして、お疲れさまでした。
ハラハラドキドキで、血圧がガーッと上がっていたでしょうねえ。

質問も 日本語でされるんですね。それを理解して答える、ものすごいことじゃないですか、ねえ。

とにかくとにかく おめでとう!!!^^
Commented by agsmatters05 at 2011-07-04 18:38
小夏さん、ありがとうございます。おかげさまで終わりまでこれました。ふう。

ロレンちゃんは「アンカフェ」という日本のロックグループにそれはそれはクビッタケで、その中のひとり ミク(?) というメンバーにもうぞっこん惚れてるみたい。ちょっとミーハーっぽく、ね。、たぶん、これが彼女の日本語学習熱をあおったのだと思います。

本当に、大勢の聴衆の前で質問に答えるのは、どえらい挑戦です。他の子たちは大部分日本に行ったことがある子達が多いんですよ。ロレンちゃん、ようがんばったと思います。私は、今年は本当にラッキーでした。なにしろ、全然苦労や努力をしてないんですからね。
by agsmatters05 | 2011-06-30 03:19 | Comments(10)

紅茶国で(元)日本語教師(今もちょっとだけ)。身の回りのいろんなことを気ままにつづっていきます。日本語教育のほかに、イギリス風景、たまには映画や料理や本やニュースや旅や、家族のことなど。

by dekobokoミチ