紅茶国C村の日々


バイバイ・ホンシビ物語(4)

AA(自動車連盟)に電話していた時、事故の場所を正確に伝える必要があった。アストン・アボッツからウイードンへ行く道はウイードン・ロードという名前だとばかり思っていたけれど、AAの電話とりつぎ係りの女性はなかなかこの場所を彼女のPCの画面で探し出せないみたいだった。生垣に突っ込んで、その家の中から二人の男性が飛び出してきたとき、その家の名前は ウインドミル・ヒル・バーンズだと壁の張り板に書かれていたので、その名前をAAに伝えたけれど、そういう家は見つからないといわれた。とにかく、アストンアボッツとウイードンの間の場所だと言って、近くまで来たらまた連絡してもらうことにした。

AAは20分から1時間ぐらいの間に来ると言われ、それを聞いたこの家の二人のおじちゃんたち(最初は友達同志だろうか、兄弟だろうか、なんて思ってしまったけれど、結局このお二人は親子だった。)は、親切に「家に入ってお茶でも飲んで待っていなさい」とまねいてくれた。待ち時間が長そうで、寒い戸外で待つわけにもいかないと思って、ご親切に甘えることにした。

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この話好きそうな二人のおじちゃんたちは、今朝7時半にもこの場所でスリップ事故があったんだよ、今月に入ってこれが3回目なんだよ、と私に話しかけてきた。若いほうの兄ちゃん(前のページの写真で白い上着を着ているほう)が、デジカメを取りだして、マイ・ホンシビの事故現場の写真を撮ったついでに、「ほら、これが今朝ここで同じようにスリップ事故を起こした写真だよ。」なんて言いながら、大きめのバンが門に背を向けて止まっている写真をみせてくれたりした。

上の写真ではよくわかりにくいけど、グリーンのゴミ箱のおいてある右側の塀の向きがずいぶんずれていて、それもスリップ事故の結果だと言っていた。何しろこの辺りはグリップ(スリップ事故防止用の道路に撒く砂)が撒かれていないもんだからねえ」と。

ウインドミル ヒル バ―ンズ/通りの名前を始めて知った。

この時、この通りの名前は モート・レーンというのだとおじちゃんが教えてくれた。そして、ウインドミル・ヒル・バーンズという名前は数年前に、ウインドミル・ヒル・ファームから変えたものだから、地図の更新ができてないのかもしれないとも。

お言葉に甘えて家の敷地の中に入っていくと、確かに「バーンズ」という名前の通り納屋風の建物がいくつか中庭を取り囲むようにして建てられていたけれど、中庭といい、納屋のどれひとつをとっても、塵一つなくきれいに整備されていた。おもわず、「きれいなお家ですね。」と言いたくなってしまったけれど、そんなこと言ってる場合じゃないはずと考え直して、それはぐっと胸にしまいこんだ。扉を開けて最初の入り口から台所へ入るように言われて、それに従った。

その台所がなんとまあ、素敵な台所でびっくりしてしまった。写真に撮らせてもらいたい気持ちをぐっと抑えて、言われた通り、広いキッチンの真ん中の広い木のテーブルの一辺に腰をおろさせてもらった。真四角のひろいスペースに台所で必要なものが一ミリの狂いもないようにきれいに並べられていて、しかも必要なものはすべてそろっていて、なおかつ無駄なものは一つもないような、見事な台所だった。

そして窓がたくさんあって、きれいな中庭も見えたし、窓に向かうと、水道の蛇口が逆U字型に高くシンクから盛り上がっていた。窓と反対側には壁一面に大きな食器戸棚が据え付けられていて、いろんな家族の写真や置物が整然と並べられていた。そしてその中に、日本のお雛様の飾りも混じっていたので、へえっと思わされた。

ご主人の話/お茶/AAを待つ間。

AA(お助けマン)が来るのを待つ間、とにかく私の連絡先を伝える必要があった。隣の部屋から若いほうの兄ちゃんが持ってきてくれた横線の入ったA4の紙に、私の名前とC村の住所やら電話番号を書くと、横に座った年上のほうのおじちゃんが、「わしも数年前まではC村に住んでいたんだよ。」と言った。あの人、この人を知ってるかとも聞かれたけど、いくら12年以上住んでいるとはいえ、ふだんA市の学校勤めをする以外、C村の住人と交わる機会なんてまずあり得ない私のこと、隣近所の2,3軒をのぞけば、名前の出せる知り合いなんぞいなかった。

どうやらこのご主人、おしゃべり好きな様子で、もとの出身はリーズ、ヨークシャーの生まれだと言った。私は日本人だというと、とたんに前のめりになったようにして、そういうことなら面白い話があるから聞いておくれと言わんばかりに、話し始めたおじいちゃん。「うちには日本人の知り合いがいるよ。」と。
「ああ、それで、ひな人形の置物がおいてあるんですね。ステキな置物。金の兜のクリスマスカードもありますね。高そう・・・。」と私。

「実はね、わしの家内は3年前に亡くなったんだが、家内がいるうちはこの家はB&Bをしていたんだよ。それであるとき日本人の夫婦が来てね、夜中に着いて腹ペコだからなんか食べさせてくれというんで、家内が食事を作ってだしてあげたんだ。その次の朝、夫婦はこの台所に来て朝ごはんを食べてね、奇妙な(ペキュリアー =peculiar という言葉をかれは使った。)話だが、この家の台所の あの流しの水道(タブ)なんぞを旦那は写真に撮ったりしたんだよ。どうしてそんなことをするのかわしにはわからんかったがね。」
「あ、それは、タブ(水道の蛇口)がきれい(pretty) だったからですよ。」と私。
「ふむ、それはどうだか、とにかく、この夫婦は、前の夜の食事のお代を払うからいくらだというんだよ。家内がお金は要らんと言ったら、ずいぶん驚いたようだった。それからなんだよ、こうしてクリスマスカードをずっと毎年送ってきてくれるんだよ。それが、旦那はヒタチにお勤めでね、英語もまあまあよく使えたよ。最初奥さんはあんまり英語ができなかったんだがね、その後旦那さんがストローク(脳梗塞?)で不自由な体になってしまってね。その後一度ご夫婦でここへ来た時は、奥さんも英語がうまくなっていたよ。最初来た時はイギリス駐在で、今は日本のヒタチに住んでいるんだよ。ヒタチといっても大きいところらしいねえ。」

この日本人のご夫婦に会ってみたい、話してみたい、としきりに思いながらおじいちゃんとおしゃべりしていた間に、若いほう(息子さん)が隣の部屋からなにやらインターネットで検索してプリントしたものを持ってきて、テーブルの上にポンとおいてまた消えてしまった。

この家で不思議だなと思ったのは、父と息子の男二人だけしか人影がなく、女っ気が全然ないことだった。土曜日で、どっかへでかけてるんだろうか?それとも、離婚していまはここには住んでいないんだろうか?などと思わされたけれど、まさかそこまで聞くわけにもいかず、
「そうなんですか、奥様のこと、お気の毒です。I am sorry about your wife.」がやっとのご挨拶。

若いほうが持ってきた紙は、最初じいちゃんが300ポンドすると言った石をインターネットで検索して、印刷したものだった。一つは 800ポンド、もう一つは175ポンドとなっていた。実物とはえらく違う石だなあと思いながらも、だまってそれをもらうことにした。
「(事故っちゃって)本当にすみませんでした。 I am sorry for causing you a trouble.」 と私が言うと、
若いほうの兄ちゃんがこう言った・

「It's the winter! (何しろ) 冬なんだからねえ。」

出してくれた紅茶はとても美味しかった。

そのうちに、テーブルの上においといたアイフォンが鳴って、AAがウイードンのハイ・ストリートまで来ていることがわかり、そのままアイフォンをおじいちゃんに渡して、この家の場所をおじいちゃんから説明してもらった。それから5分もしないうちに、AAから「着きました」のメッセージをもらい、とにかくまた3人で外へ繰り出した。
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by agsmatters05 | 2015-01-31 09:58 | Trackback | Comments(2)
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Commented by konatum at 2015-01-31 18:58
せめて、温かいお茶を飲めてよかったですね。
Commented by agsmatters05 at 2015-01-31 20:37
ええ、そうなの。砂糖もミルクも入れない、普通の紅茶だけど、気が動転して固まっているときにはありがたいものですよね。根は親切な方たちなんだと思いました。

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紅茶国で日本語教師。でも、身の回りのいろんなことを気ままにつづっていきます。日本語教育のほかに、イギリス風景、たまには映画や料理や本やニュースや旅のことなど。
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